the story begins
ELLA BOOK SHELF
CARASCO 葛原繁喜 × BACH 幅允孝



渋谷区幡ヶ谷のレコードショップ ELLA RECORDS。
ROCK、JAZZ、SOUL、和モノなどオールジャンルのレコードを取り扱うこのショップの中に、
毎月セレクトされた本が並べられた本棚がある。

"ELLA BOOK SHELF"と名付けられたこの本棚の、始まりの物語とは。

本とレコード、それぞれの出会い

―まずはお二人の経歴を教えてください。

葛原:Ella Recordsの代表、葛原です。1990年代からレコードのバイヤーを始めて、20年くらい個人ディーラーとしてレコードのアメリカ買い付けをしていました。今はバイヤーというより、もう少し幅広くレコード販売に携わっています。

ブックディレクターという仕事をやっている幅です。普段は、色々な場所で図書館を作る仕事が多いです。図書館といっても公共図書館から、企業図書館や病院図書館、学校図書館から、動物園の図書室まで、幅広く活動しています。

時間の奪い合いがすごく激しい今日、没入するのにある程度の時間を要する本というものは中々手に取って貰いづらいのですが、やはり本でないと伝わらないこともあると考えています。本をしっかりと選び、差し出し方まで工夫する……本を読む環境や、サイン計画をも提案するのが、僕の仕事です。

―それぞれ異なるバックグラウンドを持つお二人が今回ELLA BOOK SHELF(以下EBS)を一緒に行うことになった経緯は?

葛原:知人から面白い人がいる。と聞き、興味を持ったのが最初のキッカケです。 企画ありきというより、幅さんに興味を持って、実際会って魅力的な人だったので企画をお願いした。という流れです。

そうですね。それもありますし、以前からレコードというものに対して、“遅さの仲間”という勝手なシンパシーを持っていました。即効性やそういうものとまた別の。一枚のアルバムをしっかりとミュージシャンが考えた流れの中で聴くことは、一冊本を選んで、短編集や長編小説をじわじわと最初から最後まで読んでいくことに、近いものがあると思っていました。
そして、最近の自分のテーマが、すごくせわしない日常の回転数とは少し違ったゆるやかな遅い時間の流れをどう作るか、普段と違う時間の流れをどう作るか、ということでした。レコードを聴く時間というのは自発的じゃないですか。Youtubeでもサブスクリプションの映像チャンネルでも、大体今は受け身なので。選んでいるようでどんどん向こうから押し寄せてくるものに埋もれているような中で、自発的に自分の時間をどう作るかとか、自分の手で選んで本を読むとか、自分の手で選んでレコードをプレーヤーにセットして聴くとかは、すごく重要だと思っていました。そういう意味で、今回のお話をいただいた時に、是非やります、と。

―日常とは違ったゆるやかな遅い時間の流れをどう作るかというのは、昨今のサウナブームやマインドフルネスブームにつながっている気がするのですが、これは時代の気分なのでしょうか?

:気分というより、切実だと思います。やはりこのままいってしまうと、システムが人間より上位に位置してしまう世の中になってしまって、テクノロジーが人間の好意とか感情とか時間の使い方をものすごくコントロールする様な、自由でいるようでいて全然自由ではないような。世界が待っている危機感を誰もが少しは直感しているのではないでしょうか?
人間の次の形態というのをユヴァル・ノア・ハラリという歴史学者は「ホモデウス」と言って、要はAIとかが全部をジャッジしてしまい、人間が考えることよりもAIが考えることが上位概念になり「神」の概念も変わるという世界を予見している人もいるのですが、アンチホモデウス派としては、自分で聴く音楽も読む本も自分で選びたいという所はありまして。今回の企画に大変シンパシーを受けました。

葛原:そうですね。個人的に考えてもAIにおすすめされるより、友人におすすめされたほうが気分もいい 笑

渋谷区西原という場所

―渋谷区西原という場所に思い入れはありますか?

:激アリです 笑
なぜなら近所だったので。ここがスモーク屋さんだった時から、よく前を通ってたんです。僕はずっと富ヶ谷とか代々木八幡上原近辺に住んでいて、もう23年ぐらいです。餃子といえば您好(ニーハオ)ですし 笑。 とても思い入れのある街です。


葛原:うちも西原に関しては、ここに店を出したことによって全てが、うまく回り始めたと思っています。今回の企画も西原という場所じゃなければ、考えつかなかったかもしれません。

レコードショップのブックライブラリー

―その西原という街のレコード屋のなかにフリーライブラリーを作ることで、期待することはなんでしょう?

もちろん音楽好きの人も当然なのですが、そうじゃない近隣の方でちょっとレコードから最近足が遠のいているな、みたいな人がふらっときてちょっと久々にアンプとプレイヤー引っ張り出してくれたら嬉しいですね。

後は近所の子どもとかが学校帰りとかにふらっときて、いろんな人に開いている場所がレコード屋さんであるってすごく僕は良いことだと思っています。昔だとレコ屋って詳しくないと入れないとか、レコードをスピーディにパタパタみれないと格好よくないじゃないかみたいな、そういう緊張感とかって、実際悪いものではないと思うのですが、もっとふらりとやってくる感じでこのシェルフを利用していただけたら最高です。

葛原:そういえば最近、お店に小学生のディガーがきているんですよね。うちのお客さんのなかでは最年少じゃないかと。笑

:インスタで見ました!最年少ディガー最高ですね。笑
自分で選んで自分で聴くって本当に重要なことで、youtubeとかって結局アルゴリズムでみんなが支持しているものや前見たものがオススメで出てくるので、あまり遠くまでいけないというか、そういう所がありますから、そういう意味で自分の手で「掘る」にはいいなと思います。そんなエラレコーズには、新たなフリーライブラリーができるという。
正直、本を選んで調達した立場からすると、こんな本フリーで貸しちゃっていいのかというぐらい、部分的には珍しい本も入れました。フリーライブラリーだから、ぼろぼろのいらないような本にするとかではなく、渾身のエラレコーズらしい、いいレコードのチョイスと同じように、いい本のチョイスになっています。

葛原:そうですね、まずは気楽に借りて欲しいですね。店のレコードを試聴しながら読んでもらっても全然構わないから。
借りてる時間は15分くらいになるけど 笑

ELLA BOOK SHELFのこれから

―最後にELLA BOOK SHELFの今後についてお聞かせください

色々なジャンルの本を集めてやりたいというのは当然ですが、なるべく老若男女、幅広い人が集まると面白いというのと、遅いけど自発的に選んでいるような仲間というか、コミュニティが醸成されるといいなと思っています。


葛原
:ELLA BOOK SHELFをキッカケに音楽の歴史の一部を感じたり、それこそ写真集を見て古着を買う参考にしたり、色々な楽しみ方をしてほしいです。



Profile

葛原 繁喜 Shigeki Kuzuhara
株式会社CARASCO代表、ELLA RECORDS代表。
2005年に海外買い付け専門店をスタートし、2013年より国内での買取を開始。以降は、国内販売を中心としたELLA RECORDS、買取のスペシャリストを中心としたSRC(SETAGAYA RECORDS CENTER)を展開。
2018年には株式会社CARASCOに称号を統一し、国内外のオークション、店舗展開、WEBサイト運営、海外通販事業を行っている。
幅 允孝 Yoshitaka Haba
有限会社BACH(バッハ)代表。ブックディレクター
人と本の距離を縮めるため、公共図書館や病院、学校、ホテル、オフィスなど様々な場所でライブラリーの制作をしている。安藤忠雄氏が設計・建築し、市に寄贈したこどものための図書文化施設「こども本の森 中之島」では、クリエイティブ・ディレクションを担当。最近の仕事として「早稲田大学 国際文学館(村上春樹ライブラリー)」での選書・配架、札幌市図書・情報館の立ち上げや、ロンドン・サンパウロ・ロサンゼルスのJAPAN HOUSEなど。神奈川県教育委員会顧問。
幅 允孝 Yoshitaka Haba
有限会社BACH(バッハ)代表。ブックディレクター
人と本の距離を縮めるため、公共図書館や病院、学校、ホテル、オフィスなど様々な場所でライブラリーの制作をしている。安藤忠雄氏が設計・建築し、市に寄贈したこどものための図書文化施設「こども本の森 中之島」では、クリエイティブ・ディレクションを担当。最近の仕事として「早稲田大学 国際文学館(村上春樹ライブラリー)」での選書・配架、札幌市図書・情報館の立ち上げや、ロンドン・サンパウロ・ロサンゼルスのJAPAN HOUSEなど。神奈川県教育委員会顧問。